令和7年度版 税金の手引き 事業用
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63信託契約締結によるメリット9. 家族信託の活用事例<ケース1>高齢者の認知症に備える家族信託80歳のAさんは、昭和60年代に建築された一棟マンションを所有しています。Aさんは、一棟マンションが築後30年を超え、今後、いろいろな修繕工事が発生することから、一棟マンションを売却し、そろそろ管理が容易な区分所有マンション数戸に買換えたいと考えています。しかしながら、Aさんは、自身が高齢であることから、将来、重病や認知症になって判断能力を失ってしまうと、不動産を売ったり買ったりすることができなくなってしまうのではないかと心配しています。Aさんには息子Bさんがおり、日頃から一棟マンションの管理を手伝ってもらっていることから、今後は、Aさん名義の不動産の管理や運用をBさんに任せてしまいたいと考えています。一方、息子のBさんも、足腰が衰えて銀行に一人で行くのが大変になってきているAさんの体を心配しています。Bさんは、Aさんにはゆっくりと生活してほしいと考えています。しかし、不動産の名義や預金の名義がAさんのままでは、何をするにもAさん自身の判断が必要です。そのため、不動産の買換えには賛成していますが、不動産の売買契約や新しいマンションの賃貸契約などの手続きで、Aさんの負担が重くなってしまわないか、Aさんが重病や認知症になって判断能力が衰えたときに、適切な資産の管理運用ができなくなるのではないかと心配しています。Aさんが元気なうちに、委託者をAさん、受託者をBさん、受益者をAさん、信託財産を一棟マンションとして、AさんとBさんとの間で信託契約を締結します。信託契約は成年後見制度とは異なり当事者の契約によります。従って、信託財産(Bさんに託する財産)を何にするのか(Aさんの財産のうちの一部でも全部でも構いません)、どのように信託財産の財産管理をするかは、AさんとBさんの間で締結する信託契約で自由に決めることができます。将来、Aさんが判断能力を失ったとしても、一棟マンションから生じる収益を受益者であるAさんの生活費や療養費にあてることもできますし、一棟マンションを売却して、複数の区分マンションに買換えることもできます。信託契約は必ずしも公正証書により作成しなければならないというものではありませんが、公文書の証拠能力や公証人による本人確認などによって、信託契約書の有効性を担保することができます。Aさんが判断能力を失ったときの財産管理の方法としては、後見制度を利用することが考えられますが、後見制度はあくまでも本人のための財産管理の制度であり、財産を維持しながら本人のためにのみ支出することが求められるので、リスクをとった積極的な資産運用や、相続税対策のために不動産を売買することはできません。税金の手引き 事業用(委託者)=(受益者)(息子/受託者)信託譲渡受益権AさんBさん

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