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相続税・贈与税について(事業用不動産の相続税・贈与税)

2.賃貸用不動産の相続税評価

土地・建物の評価

土地の評価は、通常、路線価額により計算します。路線価額の定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて求めます。建物の評価は固定資産税評価額を基に算出されます。一般的に建物の固定資産税評価額は新築時の建築価格の6~7割前後となっているようです。

貸家建付地と貸家の評価

更地に賃貸住宅や貸しビルを建設した場合、更地の時に比べ土地の相続税の評価額が下がります。この賃貸住宅等を建てたときの土地の評価額は、以下の算式で計算されます。

貸家が建てられている土地の評価額 = 更地の評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

相続税評価額計算上の借地権割合は地域によって異なっていますが、60~70%の地域が多くなっています。借家権割合30%となっています。従って、上記算式によると、借地権割合に借家権割合を掛けた分だけ評価が下がりますので、更地の評価に比べ約18%(借地権割合60%の地域)又は、21%(借地権割合70%の地域)の評価減になります。また、家屋も貸家については、以下の算式で計算されます。

貸家(建物) = 建物の固定資産税評価額 × (1-借家権割合(30%)×賃貸割合)

貸家については、30%の評価減が設けられています。元々、建物の相続税評価額は上記のとおり建築代金の6〜7割で評価され、更に貸家の評価減があるため、結果的に貸家の相続税評価額は建築代金の約50%になるといわれています。

小規模宅地の特例

被相続人の賃貸用敷地については、200㎡までの部分について評価額の50%を減額することができます。また、被相続人の事業用(賃貸用を除く)の敷地のうち、「被相続人の親族が取得し、その事業を相続税の申告期限までに承継・継続しており、かつ、申告期限までその宅地を保有している」ものなどについては、その敷地のうち400㎡までの部分については、評価額の80%を減額できることとなっています。被相続人の居住の用に供されている宅地についても同様の評価減があります。これらを「小規模宅地の特例」といいます。

  要  件 限度面積 減額割合
事業(不動産貸付業等を除きます)の用に供されている宅地
  • その宅地等を取得した親族が、その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を申告期限までに承継し、かつ、申告期限までその事業を営んでいること
  • その宅地等をその親族が申告期限まで保有していること
  • ※相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等(当該宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、当該宅地等の相続時の価額の15%以上である場合を除く。)は適用対象外になります。

400㎡まで 80%
賃貸用に供されている宅地
  • その宅地等を取得した親族が被相続人の貸付事業を申告期限までに承継し、かつ、申告期限までその貸付事業の用に供していること
  • その宅地等をその親族が申告期限まで保有していること

※相続開始前3年以内に新たに貸付を開始した宅地等は適用対象外になります。ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合は、相続開始前3年以内に取得した貸付事業用宅地等も適用可能です。

200㎡まで 50%
一定の法人の事業の用に供されている宅地
(特定同族会社事業用宅地)
  • その法人の事業(不動産貸付業を除きます)の用に供されていた宅地等であること
  • 相続開始直前において、被相続人及び被相続人の親族の有する株式・出資が50%を超える法人であること
  • その宅地を取得した親族が申告期限において、その法人の役員であること
  • その宅地等を申告期限まで保有していること
  • 被相続人がその法人に対し、宅地等又は建物を賃貸借により貸していること
  • その法人が申告期限において事業を引き続き行っていること
400㎡まで 80%
居住の用に供されている宅地 配偶者が取得すること。 330㎡まで 80%
  • 被相続人と同居していた親族が取得し、申告期限まで引き続き居住していること
  • その宅地等をその親族が申告期限まで保有していること
  • 被相続人に配偶者や同居していた法定相続人がいないこと
  • 相続開始前3年以内に自己、自己の配偶者、3親等内の親族等又は自己と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと
  • 相続開始時においてその親族が居住している家屋を過去に所有していたことがないこと
  • その宅地等をその親族が申告期限まで保有していること
その他一定の場合

(注)上記の宅地が複数ある場合には、限度面積について一定の調整計算が必要になります。詳しくは税理士又は税務署におたずねください。

コインパーキングの土地評価

土地の所有者が自らその土地を青空駐車場のような貸駐車場として利用している場合には、その土地は自用地としての価額により評価します。ただしコインパーキングのように土地の所有者がアスファルトの舗装までを行い、その土地をコインパーキング事業者が借り受け、事業者が駐車場施設を設置した場合には、土地を賃貸していると考えられますので、その土地の自用地評価額から賃借権の価額を控除した金額によって評価します。
具体的な算式は下記の通りです。

◆評価額計算式

自用地評価額 ×(1-2.5%)

※賃借期間が5年以下の場合

< 計 算 例 >

2023年(令和5年)に父から駐車場(コインパーキング)を相続しました。小規模宅地の特例を使用しない場合、相続税評価額はいくらになりますか?

前提

①自用地としての価額は1,000万円

②駐車場施設は駐車場利用者の費用で作られています。

③賃貸借の残存期間は2年。

自用地としての価額

 

1000万円 ×

(1-2.5%)

= 975万円

◆小規模宅地の特例の適用

事業用宅地として相続税の小規模宅地の特例を受けるためには、下記の要件が必要です。

①相当の対価を得て継続的に行う事業であること

②一定の建物または構築物の敷地の用に供されているものであること

コインパーキングのように土地の所有者がアスファルトの舗装までを行い、その土地をコインパーキング事業者が借り受け、事業者が駐車場施設を設置した場合、事業用(貸付事業)の小規模宅地の特例として50%の減額を受けることができます。

タワーマンションの評価

相続税評価は「時価」によることが定められておりますが、課税実務上ではマンションの相続税評価は建物については固定資産税評価額、土地については路線価等で評価することとされています(土地・建物の評価もあわせて参照ください)。この相続税評価額によると通常実勢価格より低く評価されるため、タワーマンションのように価格が高騰している場合は売却価格と相続税評価額が著しく乖離する場合があります。この乖離を利用して相続直前にタワーマンションを購入し相続後に売却することにより相続税を低く抑えるという節税策に対して2022年(令和4年)に相続税評価額が否認される判決が出されました。

◆2022年(令和4年)4月19日最高裁判決

この事例では被相続人が亡くなる3年前に借入金でタワーマンション二室を8億3,000万円と5億5,000万円で購入しました。その後被相続人に相続が発生(評価額2億円と1億3,000万円で相続税をゼロとして 申告)し、10ヵ月以内に相続人が購入額とほぼ同額で売却しています。最高裁は路線価など画一的な評価が原則だとした上で、「実質的な租税負担の公平に反するべき事情がある場合は、本件鑑定評価額は上記二室の客観的な交換価値としての時価であると認められる」として、課税庁が採用した鑑定評価額である7億5,000万円と5億2,000万円を適法としました。

この判決以前にも時価と相続税評価額に著しい乖離がある場合や不動産の購入が節税目的であるという理由で否認されている判決があり、今後はタワーマンション節税についても課税庁の厳しい対応が増えると予想されます。